ROCKIN' ON
初期の頃は、とにかくむき出しの生々しさいっぱいで、未加工で、今ほど洗練されてなかった。
でも今はもっと研ぎ澄まされてて、特に今回のアルバムは全てが完璧にハマるようにみんなすごく頑張ったんだ。
ジャミロクワイ、満を持して帰還!結成25周年を迎え円熟味を増すバンドの頭脳、ジェイ・ケイがファン希望の来日公演を
前に実施した貴重なインタビューを掲載!世界規模で盛り上がるジャズ・ファンク熱、年齢を重ねていくこと、
そして21世紀の音楽業界への質問提起などについてアツく語る!
ジェイ・ケイの腰痛の悪化で延期となっていた5年ぶりの来日公演も無事終了したジャミロクワイ。
新旧の名曲が惜しげもなくプレイされるエンタテインメント性たっぷりのライブは、ジャミロ健在を強く確信させてくれたのである。
ジェイ・ケイのインタビューは9月14日、武道館公演の前日に行われた。来日直後で空港から取材場所まで直行してきたらしく
少し眠そうだったが、終始機嫌よく喋ってくれて、20分の取材予定時間をオーヴァーして30分近く答えてくれた。
自分の音楽ルーツや表現原理について楽しげに語り、時に美声で歌まで披露する様子を見て、つくづく音楽好きな人だと感じた次第。
初対面だったが、スーパースターのオーラはビンビンにありつつ、めちゃくちゃ気さくな人でした。
Rockin'on... 怪我の具合はもう大丈夫なんですか?
Jay... なんとかね。背中のトラブルが原因だったんだけど、本当にショックだった。アルバムを作ってる最中に痛めたわけじゃなく、
ツアーに出る3週間前にいきなりだったからね。最悪だったよ。こうして日本に来られるまで回復したわけだけど、
復帰してヨーロッパで最初にショウをやった時は、ゆっくりなペースでかなり慎重になりながら、徐々に慣らしていったんだ。
で、最近やっとバンドも本調子にもどってきて、ショウもいい感じだし、みんな普段の姿を取り戻しつつある―――――
互いに意思の疎通を図ってお互いを理解し合いながら、やるべきことを然るべきタイミングでやる、っていうのかな。
だから日本にもこうやって戻って来れて嬉しいし、僕らのことを幸抱強く持ってくれて感謝してるよ。
ヨーロッパでずっとやってきて、ちょうど気分も変えたかったし、日本に戻って来れて良かったと思ってるよ。
Rockin'on... 今回のツアーで新たに発見したこと、気づいたことありましたか?
Jay... いや、特にはないかなあ。ただ、今回怪我したことで前ほど動き回らなくなったのは確かだね。逆に、
前より声が出るようになって力強さも増したし、余裕も出てきたんじゃないかな。あと、休みを取ったおかげでライブがまた
楽しめるようになってきた。同じことの繰り返しで楽しめなくなってきてたからね。でもだからこそ、ニュー・アルバムは
フレッシュで新しいものを作る必要があったわけ―――――全曲ライブで演奏できるアルバムをね。前回のアルバムは必ずしも
そういう感じじゃなかったから。だからそう、今回のツアーを通して新たなエネルギーを注入された、って感じだね。
Rockin'on... すばらしいですね。
Jay... うん(笑)
Rockin'on... チャンス・ザ・ラッパーとかタイラー・ザ・クリエイターとか、ブルーノ・マーズなんかも含めて、
世界中の色んな若手ミュージシャンたちがあなたから影響を受けていて、
日本でもモロにあなたの影響を受けたようなバンドが大変な人気だったりするんですが・・・。
Jay... 確かにここんとこ、ジャズ・ファンクが復活しつつあるみたいだね。
Rockin'on... 2017年現在、あなたの業績や現在感が再評価されていることについては、どう思いますが?
Jay... いやあ、栄光だしハッピーだよ(笑)。でもほら、こういうブームって繰り返されるものだし、
いつの時代にもみんな影響を受けたり与えたりしてるわけでね。俺でもハービー・ハンコック、
ハース・ウインド・アンド・ファイアー、それにジョニー・ハモンド・スミスといった人たちから影響を受けたしさ。
だから自分たちが今も影響力を保ち続けているっていうのは嬉しいことだよ。特に今回のアルバムは若い世代に
アピールするパワーがあると思うし、未だに気力とエネルギーを保ちながら新鮮な音楽を作ろうと思える自分たちはラッキーだ、
と思ってるんだ。今年の末には俺も 48 歳になるけど、今も動き回って踊って歌ってるし、ライブでバリバリやれてる。
調子は悪くないしね、アハハハ!
Rockin'on... 昔キース・リチャーズが「自分の役割は先輩たちから伝統を受け継いで後輩に渡していくことだ。
自分は繋ぐ者なんだ」ということを言ってたんですが、あなたにもそういう意識はありますか?
Jay... うん、確かにそうだと思う。音楽の中に永遠に生き続ける要素があるっていうのは、すごく重要なことだと思うんだ。
でも最近は「X ファクター」とか「ザ・ヴォイス」とか、誰かをスターに仕立てあげていくオーディション番組が巷にあふれてるよね。誰かにそこからすごい逸材が産まれることもあるけど、あの手の番組が重視してるのはただ単にスターになるってことだけで、
自分が得意とすることのために一生懸命努力した結果特別な何かになる、っていう当たり前のことが出発点になってないんだ。
それってやっぱり問題があるっていうか。。。。。。最近の音楽はどれを聴いても同じに聞こえるっていうのはあると思う。
70年代、80年代のヒット・チャートと今のヒット・チャートを見比べるとわかるけど、最近のチャートの音楽は大半が
ホントに似たり寄ったりでさ。でも昔のロッド・スチュワートとエルトン・ジョンは聴いただけで違いがわかっただろ?
一方、最近の連中は俺には本当に区別がつかなくて、みんなおんなじヴォイス・シンセサイザーを使ってるし、あとほら、
(歌う)♪Oh, oh, oh, oh~♪ っていうのがやたら多いんだよな。
音楽が、特に若いリスナーを取り込めるように”デザイン”されちまってるわけ。
♪Oh, oh, oh~♪ のが一番簡単だしね(笑)。そういうつまらない”助言”が、気がつくとガッツリ主流になってしまって、
今じゃ何を聴いても同じに聴こえて、何も特別なものを感じない。特別なものがないってことは独自のアイデンティティもない
ってことで、アイデンティティがないってことは、その曲を理解して好きになる取っ掛かりが何もないも同然なわけ。
最近のリスナーは、選択肢も与えられないまま”これを好きになりなさい”と言われたものを好きになってるだけで、たとえばイギリスのラジオ局も、リスナーが自分で考えて想像力を逞しくして好きな音楽を見つけるように音楽を乗れ流してるだけなんだよ。
Rockin'on... なるほど。ジャミロクワイは今年で結成25周年になるわけですが、
当時の自分たちと今の自分たちで変わったと思うところと、逆に全然変わらないと思うところを、それぞれ挙げてもらえますか?
Jay... 変わったところっていうと、まず年を食ったっていうのはあるよね(笑)。あとはそうだな・・・・・・
歌詞に関していうと、初期の頃はどうしても伝えたい揺るぎない考えや思いっていうのがあって、
それをどう表現するかは二の次・・・・・・とまではいかなくても、でも考えなくても自然と言葉にできたんだ。
気がつくと歌詞になってたわけ。音楽も同じで、ストリングス・セクションとディジュリドゥを並べたりと、何でもアリだったんだ。
とにかくむき出しの生々しさいっぱいで、未加工で、今ほど洗練されてなかった。でも今はもっと研ぎ澄まされてて、
特に今回のアルバムでは全てが完璧にハマるようにみんなすごく頑張ったんだ。テンポ・チェンジにしろサウンドにしろ歌詞にしろ、たっぷり手間をかけて作り上げた。でももちろんもっとシンプルな曲っていうのもあって、たとえば”サマー・ガール”なんか、
大半が外に出かけてる間に思いついたっていうか、(歌う)♪Summer girl / Feels like I'm in love again / Oh, that summer girl / Oh, that summer girl / Want that summer girl♪ のくだりもそうだったけど、とにかくシンプルでわかりやすい。
そんなふうに、シンプルなのがベストな場合もあって、しかもそういう時は上手くいってるのが目に見えてわかるんだよね。
だからそこが以前と違う点、前より上手くなったところかな。トラックの構成をもっとよく考えてやれるようになった。
昔は「よっしゃこれがコーラスだ。最高!」って即決してる感じだったけど、今回は「もっと良くできるはずだ」って立ち止まることができたっていうか、一旦距離を置いて、さらにベターなアイディアと一緒に戻ってくることができたんだ。
もちろん”考えたけど元のアイディアが一番良かった”ってこともあったけど。
Rockin'on... まさに成長したわけですね。今回のシーンは均一化していて同じ音楽ばかりだ、ということですが、
逆に”これがあるからジャミロクワイなんだ”という、他のアーティストとは違う個性、アイデンティティというと、何だと思いますか?
Jay... 自惚れてるように聞こえるかもしれないけど、やっぱり俺の声かな。
独特な声をしてると思うし、この声をどう調理するか、どういうメロディを掛け合わせるかで、トラックの方向性が決まってくるっていう部分があると思うんだ。だから”クラウド9”や”サマー・ガール”を聴いても、”ダイナマイト”、”ラブ・フーロソフィー”、
”コスミック・ガール”、”ヴァーチャル・インサ二ティ”を聴いても、すぐジャミロクワイの音だとわかるし、
これからもこのヴァイブっていうのはずっとなくならないと思う。あとはそう、エレクトロ / ディスコ / ジャズ / ファンク、
それぞれのエッセンスをごちゃ混ぜにした音楽っていうのも、俺たちならではの個性になってると思うよ・・・・・・
好きな音楽をやってるだけなんだけどね。”フィール・ソー・グッド”を聴いて貰ってもわかるように、色んな要素が全部上手い具合にミックスされてると思う。前のアルバム「ロック・ダスト・ライト・スター」の”ハーティン”なんか、ロックっぽい要素が
入ってるしね。ただ、前作から今作までの間に7年の空白があったせいか、この2枚がこれまで作った8枚のアルバムの中で
一番スタイル的にかけ離れてるのも事実なんだ。
Rockin'on... でも2枚ともあなたたちの音楽ではある、と?
Jay... だと思うよ。とにかく俺ってジャンルを問わずに最高のものが好きだし、それに、そう、ジャンルの間を
行ったり来たりするのが苦じゃないんだ。大事なものは自分の声に合ってるかどうか、だからね。
”この声はこういうタイプの音楽にフィットするか?自分にとって無理のない自然な方向性か?”っていう。
Rockin'on... なるほどね。じゃあ、あなたの音楽をギターなりキーボードなりの弾き語りでやったとして、
あなたの音楽の真髄は伝わると思いますか?
Jay... ああ、もちろんだよ。”ハーフ・ザ・マン”や”コーナー・オブ・ジ・アース”を聴いてもらえばわかると思う。
あと一つ学んだのが、ピアノやギターで弾き語りしただけでいい音になっててコード自体がイカしてれば、
音楽作りとしては成功したのも同然、ってことでね。つまり、本当の意味での”楽曲”作りと”トラック”の作り込み (crafting) って、
やっぱり違うんだよ。トラックはただコンピュータをいじくっていい感じに聴こえればそれでいいけど、
曲作りはコードやコード・チェンジがうまくいかないと成立しないわけで、逆に言えば、曲を書いてて楽器一つとヴォーカルと
メロディだけでイカしたサウンドに仕上がってたら、その曲は正しい方向に向かってるってことなんだ。
Rockin'on... わかりました。話は変わりますが、今のポップ・シーンでは、アーティストたちがフィーチャリングや
コラボレーションという形でお互いのレコードに参加して盛り上げていこう、という風潮がありますよね。
でもあなたは昔から、他のアーティストとつるんだりコラボしたりお互いに客演したり、
といったことがほとんどないように思うんです。それはなぜなんでしょか?
Jay... あー、んー、それはね、正直そういった話の多くにセルフ・プロモーション臭さを感じるからなんだ。
Rockin'on... (笑)。なるほど。
Jay... 「あいつに俺のヴィデオに出てもらおう・・・・・・いや、いっそビッグ・スター5人探してきて全員に出てもらおう。
5分ずつ何かやらせて後からくっつければいい」みたいな。で、結果、作品がすっかり骨抜きにされてしまうわけだよ。
色んな人間が関わることで多様性が生まれるのはわかるけど、でもやっぱり俺には、ただの打算の産物に見えちゃうんだよね。
あと正直に言わせてもらうと、最近はトラック作りにはコラボが不可欠みたいな風潮があるけど、それって本当のところ、
レコード会社がそう望んでるだけなんだよ。そうすりゃ2人のアーティストを一度にプロモートできるからね。
そこはちゃんと認識しようや。だってさ、昔はエルトン・ジョンと他のアーティストとのコラボなんて、見たこともなかっただろう?
そりゃ全くゼロとは言わないよ。たとえばカーリー・サイモンとかともやってるし。
Rockin'on... エルトン・ジョンとカーリーサイモンって何かやってましたっけ?
Jay... あ、ごめん、カーリーじゃなくキキ・ディーだ。
Rockin'on... はははは(笑)
Jay... (また歌う)♪Don't go breaking my heart ~ ララララー♪ だっけ(笑)。でもそれにしても、最近はどの曲にも
”フィーチャリング誰々”って書いてあって・・・・・・挙げ句は”フィーチャリングのフィーチャリングのフィーチャリング”って、
一体何人フィーチャリングすれば気が済むんだ?っつう。この曲を書いたのは結局どいつなんだ?って、わけがわかんなくなるよ。
あともう一つ個人的なことを言うと、俺って何でも自分で仕切らないと気が済まないタチだから、
結局「気に入らない」、「だめだこんなの」でお蔵入りになると思うんだ。
Rockin'on... (笑)。コントロール・フリークだと?
Jay... 申しわけないけどね!(笑)もちろん上手くいくこともあるし、実際俺たちも客演してもらったことはある。
でも正直に言わせてもらうと、マット(・ジョンソン)と2人でそのトラックを聴きながら・・・・・・。
Rockin'on... 「やっぱりだめだ」と?(笑)
Jay... そうなんだよ。で、「こんな感じでどう?」って自分たちでピピピピププププってやり始めたら5分でモノにできた、っていう。そもそもトラック作りなんてそんなもんなんだよ。ま、別にいいんだけどね、適任者とのコラボなら全然構わない。
ただ、途中でにっちもさっちもいかなくなるような相手は勘弁、ってことなんだ。それに、やっぱりああいう企画の多半は音楽じゃなくプロモ目的だと、俺は思ってるし、素晴らしい作品にするためじゃなく、「あいつ今大人気だからコラボしておこうぜ」っていうね。で、周りもそれだけで「素晴らしい」って、深く考えもせずに言ってしまってる、っていう。
最近は音楽のことをちゃんと考えない人間が多くて困るよ(笑)。
Rockin'on... でもたとえば、モーリス・ホワイトの代わりにアース・ウインド・アンド・ファイアーで
ヴォーカルをやってくれと依頼されたら、どうしますか?(笑)
Jay... アッハッハッハ!俺にはモーリスの高音は出せないよ!それじゃマズいだろ(笑)
Rockin'on... (笑)。じゃあ、この人とやってみたい、というようなアーティストはいますか?
Jay... んー、そうだな・・・・・・人としてウマが合いそうな相手、たとえばカルヴィン・ハリスとか。
あいつはなかなかだよね。あとはダフト・パンクかな。大ファンだし。
Rockin'on... へえ。是非やってくださいよ!
Jay... ああ、スペシャルなコラボになるだろうね。連中はただ者じゃないよ。マーク・ロンソンともこないだ一緒にやったばかりだし、そんなふうに経験豊富で人間的にもいい奴らとなら、やれなくはないんだ。ブルーノ・マーズも嫌いじゃないし。
みんなクールでいい奴ばかりだよ。