ROCKIN'ON
新作『オートマトン』ではエレクトロがかった、どこまでも聴きやすいファンクを作り上げてきたジャミロクワイ、
5年ぶりの来日である。はっきり言ってこの新作はファンク度とポップ度とそのキャッチーな調べ度とあわせてもかなり強力な
内容になっているので、これだけでもかなりレパートリーが厚くなった感じはあって、きっと楽しいライブになるに違いない
という期待感とともに武道館に向かい、あまりにも見事にその通りの内容だったことにとても深い感銘を受けた。
オープナーを飾ったのは新作のオープナーともなった"Shake It On"で、ジャミロクワイの定番サウンドである、
ファンキーなスティーヴィー・ワンダー的クラビネット・キーボード・リフにファンク・リズム・セクションが絡む展開にさらに
エレクトロ感が全編覆い尽くしていく音が広がって、やはりこの新作は素晴らしいと唸らざるを得ない。
ジェイ・ケイはアメリカ先住民の頭飾りの羽根を一枚一枚発光体にしたヘッドセットを被って登場し、この羽根をライブ中、
終始立てたり寝かしたりさせつつ、さまざまな発光パターンを披露して楽しませてくれることになった。
演奏はそのまま途切れることなく、ギター・カッティングへと突入し、そのままジャミロクワイの究極ともいってもいい
ダンス・ナンバーの"Little L"へと雪崩れ込むすさまじい展開。とにかく繋ぎがすごすぎた。
この冒頭2曲の流れだけでも新作『オートマトン』がいかに素晴らしい作品か分かるものだったが、
これに続いて披露されたのが新作のタイトル・トラックの"Automaton"だ。
これもまたヘヴィーにエレクトロ・アレンジを打ち出した曲だが、どこまでもクラウト・ロック的な硬質でいびつな
エレクトロ・サウンドを経て、ダフト・パンクを思わせるブリッジへと展開する流れがかなり果敢な内容となっていて、
ライブで披露されるとなおさらそのエッジーさが際立っていた。しかし、さらにすごいのが終盤にきてのコーラス部分が
フーディニなどの1980年前後のエレクトロ・ヒップホップを思わせる展開をぶちまかしてくるところで、
そこでのジェイのオールドスクール・ヒップホップ的な節回しとバンド・サウンドはかなり圧巻で、このバンドのファンク観と
歴史観が披露されて感慨深かった。このライブでの迫力を経験してようやくわかったのは、
この曲の前半のクラウト・ロック的な展開はアフリカ・バンバータへのオマージュだったのだ。
演奏はそこからたたみかけるような強烈に性急なファンク・パフォーマンスの"The Kids"に突入して一気に駆け抜けていくが、
レコードではどこまでもスティーヴィー・ワンダー的なジェイのボーカルがライブではもうほとんど
ジェイムス・ブラウンのような迫力を帯びるようになってきていたのがとても印象的だった。
続いてはまたしても新作からの"Dr Buzz"で、ゆったりとうねるグルーヴにカリプソ的なパーカッションとともにジェイならではの
甘いボーカルがコーラス隊との掛け合いのなかで繰り広げられていく極上なポップ・ファンクとなって、
演目のめりはりからいっても、今回の新曲群の素晴らしさにあらためて気づかされる。
新曲の後はジェイの「ぼくたちが初めて日本に来た1995年に戻ろうか」という誘いとともに"Space Cowboy"の演奏に。
これまでの演奏はどこまでもタイトなトータル感で押しまくるバンド・アンサンブルに徹していたが、
こうした古いナンバーではアシッド・ジャズ時代の楽曲の特徴を活かして各メンバーの個性と演奏性が強調されて、
ひたすら聴かせる展開となってこれもまた素晴らしかった。
こうして新曲群と名曲群のメリハリがまったくだれない流れを生み出してそのまま最後まで一気に駆け抜けるパフォーマンスに
なったが、やっぱり圧巻だったのはあまりに完成度の高いポップ・ファンクとして鳴らされた新曲のひとつの"Cloud 9"だった。
この曲と極めてセッション的な"Space Cowboy"との対照的なバンドのアプローチがとても印象に残ったし、
フリーハンドになんでもこなしながらもしっかりリスナーの求める音像を作り上げていくその確かな見極めに畏れ入った。
アンコールはジェイの「じゃあ、次の曲でみんなを会場から追い払うから」という一言とともにバンドは"Virtual Insanity"に
雪崩れ込み、会場もすさまじい盛り上がりに。5月にはジェイの入院とツアーの中止など心配な局面もあったけれども、
新曲群の存在とともにその健在ぶりをみせつける公演となった。
