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FREE & EASY

アシッド・ジャズ華やかなりし92年のロンドン・クラブ・シーンから登場し瞬く間に世界のポップ・シーンを賑わす存在となった

UK ファンキー・バンド、ジャミロクワイ。リーダであるジェイ・ケイはよく言えば、天衣無縫。悪く言えば、ガキ。

しかし、スターのワガママとは違う、憎めない微笑ましさが彼にはある。約2年ぶりとなるニューアルバム「A Funk Odyssey」

を完成させたジェイ・ケイを、ロンドン郊外の田園地帯にある自宅に訪ねた。

「ガキのまんま大人になちゃったようなヤツー」

ファンキーなサウンドとキャッチーなメロディーを生み出し、軽やかな歌と超個性的なダンスでファンを魅了し、

ナチュラルなストリート・ファッションでキッズたちをも引つける"キャラ立ち"のいい彼には、幅広い層の人たちが、

大きな関心を払っているようだ。​その証拠に、僕が彼にインタビューしたことを知ると、

ほとんどの人が音楽云々よりもまず、彼のパーソナリティーを知りたがるのだ。

​曰く「ジェイって、どんなヤツなの?」。で、大扺の場合、冒頭のような答えを簡潔に返すことになるわけだ。​

その”ガキっぷり”を示すエピソードは事欠かない。インタビュー中でもフッと何処かへ消えてしまう落ち着きのなさ、

買ったばかりの折りたたみ自転車で新幹線の中を走り回り、

そのまま東京駅の自動改札に突っ込んで駅員さんにこっぴどく叱られたりする無邪気さ・・・・・

きっとその心は、ロンドンの裏通りで食うや食わずの貧乏生活をしていた頃、「金になることはなんでも」やりながら、

ファンク・クラシックスに魂を躍らせていたティーンエイジャーの頃と少しも変わっていないのだろう。

新作が完成したばかりの彼の自宅を訪ねると、いつものようにリラックスした彼がいた。

 

 

Free & Easy... 2年ぶりだけど、広~い庭も綺麗になったし、スタジオも拡充したんでしょう?すっかりここに馴染んだ感じ?

Jay Kay... そうだね。君が前に来たのは、ここに引っ越してから半年ぐらいの頃だったから、まだ雑然としてたけど、今はすっかり

落ち着いたよ。それにスタジオもすっかり手の内に入れたし、新たに小さいデジタル・スタジオも建てたんだ。

Free & Easy... ということは、レコーディングにはけっこうデジタル・テクノロジーも使うようになったということ?

Jay Kay... そうそう。今回のアルバムでは、曲によっては半々ぐらいの割合でライブ・サウンドとプログラミングをミックス

してるんだ。ジャミロクワイのサウンドの要はグルーヴィーなライブサウンドだけど、今回はそこに新たな要素を加えたかった。

具体的にい言えば、プログラミングを使ってビートを強化したんだ。そのためにデジタル・スタジオを作った。

アナログとデジタルのミックスで、デジタルだけど温かい音を出してるんだ。

Free & Easy... 共同プロデューサーが新たにリック・ポップに代わったのもそのため?

Jay Kay... イエス。リックは今までスタジオやライブで俺たちのエンジニアをやってたヤツだから、バンドのことは知り尽くしてるし、デジタルにも強いからね。彼が適任だった。でも、レコード会社からはアメリカ人の有名なプロデューサーを

使うようにプレシャーをかけられてさ、参ったよ(笑)。そいつは有名だけど、もう10年もロクな作品をやってない。

なのに法外なギャラを取るんだ。ブー、だよ(笑)。そもそも、有名なプロデューサーを使えば、いい作品が出来るのか?

今までそんなやり方はしてこなかったんだから、答えはもちろんノーさ。

 

 

Free & Easy... より身近なスタッフで固めた、と。前作のレコーディング中に交代したベーシストに続いて、

ギタリストも新しい人に替わった。彼らは曲作りにも積極的に関わってるよね。

そうして仕上がったサウンドは多彩でパワフル。バンドが今、いい状態であることが伝わってくる。

Jay Kay... わかるかい?去年の夏から参加した新しいギタリストはロックからボサノヴァまで弾きこなすテクニシャンで、

何よりも曲をもっと良くするための努力を惜しまないヤツなんだよ。最高だよ。

Free & Easy... じゃあ、より素晴らしい環境と頼ましいメンバースタッフを得て制作したのがニュー・アルバムなんだね。

Jay Kay... だから、今回は新たなスタート地点に立ってる気がするんだよね。

Free & Easy... ところで、穏やかで美しいミディアム曲とかアグレッシヴなロック調のダンス・ナンバーとか、

今までにない感じの曲が新鮮。ボサノヴァ調の2曲からはジェイの素顔が感じられるように思った。

Jay Kay... そう、「コーナー・オブ・ジ・アース」と「ピクチャー・オブ・マイ・ライフ」はパーソナルな曲だからね。

みんなは俺のことを単なるフェラーリ抂の男だと思ってるんだろうけど(笑)、実はそれは俺の中の5%にすぎないんだ。

95%はこの2曲みたいな感じなんだよ。たとえば「コーナー・オブ・ジ・アース」は、まさにここでの生活から生まれた曲だ。

この自然の中で夜、星空を見上げてると、自分が宇宙と繋がってることを感じるんだ。同時に、俺は地球のほんの一角

にいるにすぎないってこともね。ここは俺だけの特別な場所なんだ。ここで生活は・・・・・うん、幸せって言えるだろうね(笑)

 

Free & Easy... 今回は、というか今回も宇宙をイメージさせる曲が多いよね。

Jay Kay... もともと70年代のパーラメントみたいに、ファンクと宇宙は繋がりが深いんだけどさ、俺が宇宙に夢中になれるのは、

俺たち人間があんまりにもそれに対して無力だからなんだ。天を見上げてると、思うんだよね。あれが俺たちの原点なんだって。

そして、俺たちは所詮、宇宙の塵にすぎないってことも。オーストラリアのど真ん中で星空を見上げたことがあるかい?

もう満点に敷きつめられた星のじゅうたんを見ることができるんだ。あんな星空を見たら、本当に畏敬の念を抱かざるをえないね。

そして人間の無力さを知るんだ。この地球の上ではみんなが闘うことに夢中だけど、

兵器や自然の摂理に逆らったテクノロジーの開発なんかにお金をかける代わりに、この星を住みやすい場所にするべきだ。

でも、ブッシュみたいなやつが大統領でいる限りはね・・・・・。

21世記の到来と同時に理解と善意の新時代が訪れるとばかり思ってたのに、そうはならなかった。本当に残念なことだけど、

でもさ、2001年を新しい始まりにしたいじゃないか!で、俺たちはジャミロクワイのファンクの旅を始めるってわけさ。

キューブリックの"2001年宇宙の旅"じゃないけどさ(笑)

Free & Easy... ジェイのそういう真っ直ぐなところは少しも変わってないんだね。

Jay Kay... まあね。昔から変わってないよ。そもそも学校の宿題を提出日の前に仕上げるなんてこと、

したことがないヤツなんだ(笑)。”ジェイ、見せなさい”って言われるギリギリまでやらない(笑)。

それは今でも同じなんだよね。でも、だからこそ常に新鮮な気持ちで物事にあたれるわけでさ。

Free & Easy... それ、言い訳じゃないの?

Jay Kay... 違うって!音楽だって、計画を立ててそのとおりにやっても絶対いいものはできないんだ。決め事は最低限にして、

新鮮な気持ちで向かわなきゃ。だからこそ、今回みたいなフレッシュなアルバムができたわけだしさ。​

そんなジェイが、得たものの代わりに失ったものなどあるのだろうか?あえて言うなら、底意地の悪いことで有名なイギリスの

メディアからの干渉やハイプで失われたプライヴァシー?そう彼は言うけれど、それも本質的な”喪失”とは言えまい。

子供の心を持ち続ける彼に”喪失”はないのかもしれない。

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