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ジャミロクワイ結成から1998年まで在籍したことで知られる名ベース・プレイヤー、ステュアート・ゼンダー。ジャミロクワイ以降も
ローリン・ヒル『The Miseducation Of』(綴りがStewartになっているのが不満だそう)やアデル『19』などへの参加、マーク・ロンソンのバンドのミュージカル・ディレクターを務めるなど活躍している彼が、6月にひょっこり来日。せっかく日本にいるなら、とフレンドリーな
彼に「What's In My Bag」な企画を仕掛けてみた。ディアンジェロとの『Voodoo』レコーディング秘話、山下達郎や八神純子、
カシオペアといった彼の音楽趣味、そしてインコグニート最新作を始めとした最近の動向をカリスマ・ベーシストが語る。
ジャミロクワイ結成から1998年まで在籍したことで知られる名ベース・プレイヤー、ステュアート・ゼンダー。ジャミロクワイ以降も
ローリン・ヒル『The Miseducation Of』(綴りがStewartになっているのが不満だそう)やアデル『19』などへの参加、マーク・ロンソンのバンドのミュージカル・ディレクターを務めるなど活躍している彼が、6月にひょっこり来日。せっかく日本にいるなら、
とフレンドリーな彼に「What's In My Bag」な企画を仕掛けてみた。ディアンジェロとの『Voodoo』レコーディング秘話、山下達郎や
八神純子、カシオペアといった彼の音楽趣味、そしてインコグニート最新作を始めとした最近の動向をカリスマ・ベーシストが語る。

「最初はジェイムス・ブラウンから始めよう。『In The Jungle Groove』。彼はそもそも、僕にとって初めてのポップ・アイドル
なんだ。子供の頃の話だね。5歳の頃は、彼みたいになりたいと思ってた(笑)。クレイジーに踊って、叫んで……
子供なら誰もが憧れた存在だからね。『In The Jungle Groove』はファンキーなグルーヴが最高だ。
クリスマスに亡くなったんだっけ? だから僕はクリスマスは、"ジェイムス・ブラウン・デー"として祝うことにしているよ(笑)。
ファンクとソウルのゴッドファーザー。僕のアイドル、ジェイムス・ブラウンは大好きだ」

「次はウェザー・リポート。このアルバムで僕はどうベースギターを演奏するべきか学んだようなものだ。
このアルバムはロンドンの友人に教えてもらったんだけど、ジャコ・パストリアス(Jaco Pastorius)の演奏にすぐ惚れ込んだよ。
アルフォンソ・ジョンソン(Alphonso Johnson)も弾いているけど……ジャコはレジェンドだ。
彼はエレクトリック・ベースギターを変えてしまった。グルーヴ、テクニック、ハーモニクス……どれも信じられない素晴らしさだ。
ウェザー・リポートの『Black Market』は、間違いなく僕のトップ5アルバムのひとつに入る作品だね」

「古い作品を続けていこうか……カシオペアだ。ジャパニーズ・フュージョン・ファンク。学校の友人が……
僕はロンドンのアメリカン・コミュニティ・スクールに行ってたんだけど、彼女も素晴らしいベース・プレイヤーで、
カシオペアを教えてもらったんだ。素晴らしくてびっくりしたよ。ベーシストにも会ったことがあるんだ……
なんて名前だったっけ……自分の記憶力が憎らしいよ(笑)。サクライさん(櫻井哲夫)かな?
カシオペアは本当にテクニカルで……技巧的過ぎるという人もいるくらいだけど、本当に素晴らしいよ」

「日本の音楽を続けて。この男、ヤマシタ・タツロウだ(※日本式に、姓→名の順で呼んでいた)。
彼のサウンド、歌声はとてもクールで本当にファンキー。彼はまだ音楽を続けているの? おお、いいね。
僕は自分のアルバムにずいぶんと長い時間をかけてしまっているけど、世界中の歌手に参加してもらいたいと思っていて、
ぜひ彼にも参加してもらいたいと思っているんだ」

「続けて、ヤガミ・ジュンコ。とても美しい歌声の持ち主で、素晴らしいピアニスト。これはベスト・アルバムだけど、
彼女の80年代の作品はとてもクールだ。彼女にはいろんなポップ・ヒットもあるのは知っているけど、80年代のファンキーな
曲が最高だね。僕がかけると、『それは誰だ!?』って聞かれるよ。彼女は間違いなくファンキー」

――山下達郎や八神純子はどうやって知ったんですか?
「テクノロジーのおかげだよ。YouTubeだ(笑)。YouTubeで聴いていると、関連楽曲なんか出てくるでしょ。
特に日本のものはヴェイパーウェイヴで知ったかな。80年代の音楽をスロウダウンさせたりピッチを変えたりしてるんだ。
彼女(八神純子)の楽曲もそれで使われてて。ヤマシタ・タツロウの曲もね。それで、『これは誰だ?』ってなって。
ヴェイパーウェイヴにハマってたから、それで使われている曲を調べて、見つけるって感じだね」
――日本の昔の楽曲もよくヴェイパーウェイヴでサンプリングされていますからね。
「そのとおりだよ。ヴェイパーウェイヴ知ってるんだ? いいね。彼女(八神純子)も素晴らしいし、彼(山下達郎)も最高だ」
「次はもっと未来の話をしよう。ディアンジェロ。これは最新作だけど、彼の音楽はデビュー当初から大好きだし、
ディアンジェロは友人のひとりでもある。実は『Voodoo』のセッションに参加したんだけど、残念ながら無くなってしまって。
でも彼と"Baby's Eyes"という曲が作れたのは幸せだったよ。彼は間違いなく非凡な人だ。ジャミロクワイのニューヨーク・ギグが
あったときに、彼のスタジオに行って、クエストラヴ、ディアンジェロと僕とでライブのようにセッションしたんだ。
それで曲が生まれたんだけど、残念なことにその音源は失われてしまった。
コピーがどこかにあると思うんだけど、多分DATテープかな。音質はひどいことになってると思う。
ドニー(Don-E)がボーカルをやってて。ドニーのアルバムでもディアンジェロが鍵盤を弾いてて、最高だよ。天才だ。
ブラック・ミュージックから受けた影響の中でもディアンジェロはすごく、すごく大きな存在で、ヒーローみたいな存在だ」

――あなたが当時ドニーとやってたアズユーアー(AZUR)は、そのディアンジェロが参加した"So Cold"(2008年の『Natural』収録)
だけが正式にリリースされた音源ですよね。(※1998年にレコーディングされたとされるアズユーアーのアルバムは
お蔵入りしており未発表。ステュアートは2014年に、マスタリングをし直していずれ正式にリリースしたい旨を発表している)
「そのとおり。あれはアズユーアーの時と同じトラックを使ってるんだよ」
――アズユーアーのアルバムはリリースできそうですか?
「ああ。ただ、ずっとミックスし直しているんだ。古い録音だしね。まとめるのに苦労しているよ。でも絶対出したいと思ってる。
5曲は終わってるんだ。時間がかかってるけどね(笑)。僕自身のジャズ・ファンク・アルバムも同じように長いことかかってる。
なんでも時間がかかってしまうんだ。僕はいいんだけど、みんなため息ついてるよ(笑)」
――ピノ・パラディーノと一緒に制作したことは?
「ピノは知り合いだけど、一緒にやったことはないな。彼は素晴らしいよね。ウェールズ出身じゃなかったっけ?
ググれ、ググるんだ!(笑) 彼とはアズユーアーのレコーディングの時にニューヨークで会ったんだよ」(※ウェールズ出身でした)
「続いて、ロサンジェルスからの新しいバンド、ジ・インターネットだ。僕はあるロック・バンドのファンで、ロナルト・ブルーナー
(Ronald Bruner, Jr.)って若いドラマーにびっくりして。ちょっと太ってるけど(笑)、世界最高峰のドラマーだ。
それで彼の弟のスティーヴン・ブルーナー(Steven Bruner)、つまりサンダーキャット(Thundercat)も知って。彼の音楽も大好きだ。
(※ロック・バンドとは、ブルーナー兄弟の参加していたスイサイダル・テンデンシーズのこと。
ブルーナー兄弟の末の弟ジャミールはジ・インターネットのメンバー)
それはともかく確か、ジ・インターネットのメンバーが影響を受けてるってツイートを見たんだ。信じられなかったけど(笑)、
『キッズが僕のことを知ってるなんて』ってね(笑)。でも彼らは最高だ。クールだね。
ケイトラナーダ(KAYTRANADA)がやった曲("Girl")が特に素晴らしいけど、このアルバム全体も最高。
ジャズ、フュージョンだけど新しくて……なんて言葉がいいんだ?(笑)、ニュー・フュージョン・ジャズ・ヒップホップ・ファンク
な感じだ。ずっと彼らと一緒に演奏してみたいって思ってるんだよね。とてもいいLAバンドだよ」

「おっと忘れるところだった。なんて素晴らしいアルバムだろう。実はまだ全部聴いたことがないんだけど、レコードショップで
聴いた感じ、最高だね。おかしいことに、(ステュアートの参加した)"Love Born In Flames"はブルーイが詞も曲も書いたんだけど、
僕のハードディスクドライブにあった5年前のバックトラックが元なんだ。ハードディスクにはたくさんトラックがあって、
ブルーイに聞かせたら『これだ』って(笑)。素晴らしい才能の持ち主と制作できるのは最高だよ。逆に"Echoes Of Utopia"って曲は、
彼が指揮したんだ。すごく気に入ってるよ。僕がいた頃の昔のジャミロクワイ……セカンド・アルバムの頃みたいなサウンドなんだ」

――あなたは2010年の『Transatlantic RPM』にも参加していましたよね。
チャカ・カーンらが歌ったボズ・スキャッグスの"Lowdown"カバーなどで。
「そうそう。で、ブルーイは僕にもビデオに出て欲しいって言ってくれたんだけど、でも撮影当日に言われたから出演できなかったよ(笑)。"Love Born In Flames"には出てるけどね。ロンドンで撮影したんだ。すごく暑い日で、大変だったけどね」
――ところで最近あなたは新人のザック・エイベル(Zak Abel)“Everybody Needs Love”のプロデュースをしていましたね。
「そうそう! 何でも知ってるな(笑)。4曲が彼のアルバムに入ることになると思うよ。とても才能があるやつで、ハードワーカー。
ザックは素晴らしいよ。アルバムは来年になると思うけど(※デビュー・アルバム『A Love Electric』は今秋リリース予定とアナウンス
されていたのだが……)。時間がかかってるんだ。ザックは卓球の英国チャンピオンだったんだ、まだ少年の頃にね。
ビデオは観た? ワンショットで撮った卓球の映像だよ」
――他に関わっているプロジェクトは?
「ウィル・ハード(Will Heard)ともやってるよ。ロンドンで5年前に知り合ったんだ。彼は今EPを作ってて。
僕のアルバムでも歌ってもらってるよ。彼も素晴らしい。声域が広くて、ハードにも歌えて。聴いたことある?
ルディメンタル(Rudimental)やカイゴ(Kygo, ステュアートはキーゴと呼んでいたが) で歌ってるよ。
彼のレーベルはダンス・ミュージック中心のところだけど、
僕らがやったのはとてもオーガニックで、生演奏でレコーディングしたんだ。クールに仕上がってるし、出来に満足しているよ。
彼は素晴らしいパフォーマーで、サックス奏者としても最高なんだ。本当に才能のあるやつなんだよ」
――待たれるあなた自身のアルバムには他にどんな人が参加予定ですか?
「ウィルだろ、それからヤマシタ・タツロウに参加してもらえたら嬉しいな。(ヤガミ・)ジュンコも。
昔からいるアーティストとこれからの若い才能をミックスさせたいんだ」
最後に、タワレコを出る直前、SuchmosのCDを見つけた彼が、「あ、Suchmos!」と反応、彼らのことを知っていたことも
申し添えておこう。訊くと、Suchmosがジャミロクワイのカバーをした("Blow Your Mind")ことを友人から教えてもらったそうで、
残念ながらまだ音源を聞いたことはないそうだ。その話を聞いた時にはもう店を出てしまったこともあり、手にしてもらう機会を
逸してしまったが……ジャミロクワイをリスペクトするSuchmosとコラボする日がいつか来るかもしれない。
